可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

繰り返す虫歯とメロディ

 春になると虫歯になる。なにを言うのだと笑われそうだが、実際私の歯が痛みだし、詰め物が取れたりすると、決まって季節は桜の時期なのだ。花粉症でもあるまいし、もちろん春と虫歯の間には直接的な関係はない。おそらく冬場の私の習慣のなにかが悪さをしているのだろう。

 そのなにかはいまだにわからないままだ。しかし、今年も構えてはいたのだ。そして、予想通り春になると上の奥歯が傷みだした。暖かくなってきたころから少しずつ痛むような気がしていたのだが、どうにかして知覚過敏だろうとか、アイスを食べたからだなどと自分に言い訳をして、歯医者を避けていたのだ。行かずに済むならそれにこしたことはない。そうやって、だましだまし暮らしていたのだが、満開の桜と同時に、いよいよズキズキとした痛みが出てきた。

 当然、そうなると歯医者に向かうべきだが、なにを間違えたのか、私は痛みを我慢して映画を観にいったのだ。そして、劇場を出て喫茶店に入り、いつものように劇中で印象に残ったことを書き出そうとした。

 「歯が痛い」

 そうだ、この映画に対してまっさきに思い浮かんだのは、あろうことか歯が痛いということだった。しかし、それはもはや映画の感想ではない。私は自分でもその可笑しさに苦笑しながら、痛みをこらえなくてはならなかった。
 週末を乗り切り、無理矢理予約を入れてもらい、掛かり付けの歯医者に行った。レントゲンを撮り、神経まで傷んでいることがわかった。やはりそうだったのかと思った。なにしろ、経験したことのないような鈍い痛みだったのだ。そして、先生は麻酔を打ちはじめた。

 ♪ターラーラーラー、ターラーラー

 ゆっくりと麻酔が入っていくのがわかった。それに合わせて、麻酔器から電子音で「星に願いを」が流れた。痛みを止めてほしいと天にも祈る私の気持ちを代弁するように電子音が流れた。

 ♪ターラーラーラ、ターラーラーラ、ター、ラー、ラー

 サビが終わり、麻酔もこれで終わりだ。そう思ったのだが、そうではなかった。

 ♪ターラーラーラー、ターラーラー

 再び「星に願いを」が最初から流れ始めたのである。いったいこれはなんのためのメロディーなのか、それは結局わからないままだ。