可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

横書きを縦書きに

 今ではほんのわずかな枚数の年賀状を出すだけだが、かつて実家が和菓子店を営んでいたころは、年末といえば、家族そろってお客さんに向けての年賀状を大量に準備したものだった。ある日、母がびっしりと埋め尽くされた横書きの住所録を見ながら、1枚1枚ハガキに筆ペンで宛名を書いており、その向かい側では郵便番号を冊子で調べる祖母の姿があった。

 祖母の前には、まだ郵便番号を記入していないもの、すでに郵便番号を入れたもの、そして郵便番号がわからないものの三つの山が出来ていた。なぜ、わからないのだろうかと私は思ったのだった。たとえば、これが宛名に「山田薫」とあって、男女のどちらかがわからないというのなら話は別だ。あるいは「小林幸子」とあって、「さちこ」か「ゆきこ」のどちらかわからないとか、同じ住所に宛名が2人も3人もあって、夫婦か、親子か、あるいはただの他人なのかわからないというのなら、まだしも、住所と郵便番号は一対一に対応するはずで、番号がわからないような住所では、ハガキもやはり届かないのではないかと思ったのだった。そして、きっと祖母の調べ方がまずいのだろうと考えた私は、その1枚を手に取った。

    神
    奈
    川
    県
    厚
    柿
    ×
    ×
    町

 いったいこれはどこだろうか? たしかにそんな住所は存在しないのだが、少し考えて思い当たった。「神奈川県厚木市」である。そして、それは横書きした住所を縦書きにする時に、母が「厚木市」を「厚柿」と読み間違えたからだった。柿が食べたいとでも思っていたのだろうか。手書きの文字はしばしばこういうことがある。横書きを縦書きにする。そこでは厚木市が厚柿になり、旧ソ連が1日ソ連になる。そこから、年賀状シーズンに向けて何か教訓を導きだす気はさらさらないのだが、どうやってそんな文字列が生じてしまったのかを考えるのは案外愉しいものである。