可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

1年間つづける

ちょうど「可笑しなことの見つけ方」をはじめてから1年になる。第1回が2013年の9月30日、その時にはまだタイトルに(仮)がついていた。第2回が10月9日の木曜日。その日からは毎週木曜の夜に更新するようになった。はじめた時には2、3回分し…

すぐに戻ります

金曜の夜遅くに横浜駅の地下ホームに降りて行くと、ちょうど売店のシャッターに貼り紙がされているのに気づいた。「すぐに戻ります」 腕時計を見ると、時刻は9時を過ぎていた。私は咄嗟に思った。さすがにもう戻ってこないのではないかと。 そして気になっ…

カタルーニャの男

ふと思い立って八月に岐阜県の白川郷を訪ねた。友人に教えてもらった高山からのツアーバスに乗り込むと、さすがは世界遺産だけあって、外国からの旅行客でいっぱいだった。ちょうど隣の席になったのがバルセロナから休暇を利用して日本に旅行に来た20代の…

スケッチブックを片手にぼくらは

夏のカラッと晴れた日の夕方、気持ちのいい海風が吹いている都心の駅のペデストリアン・デッキを歩いていた。ベンチの近くで、大学生くらいの背の高い男の子と背の低い男の子がふたり、愉しそうに話しているのが遠くから見えていた。彼らはスケッチブックを…

ただ繰り返し届くハガキ

夏の初めに引越した直後のことだ。私宛のものに紛れて、前の住人宛の何通かの郵便物が郵便受けに投函されていた。郵便局への届けが遅れたのだろう。私はすぐさま「転居されました」と朱書きして、間違って届いた郵便をポストに投函しにいったのだった。 数日…

予測不可能なおじさんたち

ちょうど店の端っこのサービスカウンターで応対する若い店員さんの声が聞こえてきた。休みの日に渋谷の大きな書店で本を探していたのだった。 「当店には在庫がないようですね」 ふとそちらを見やると、カウンターの前にはポロシャツに短パン姿の背の低いお…

消費者物価指数をしらべる

ニュースを見ていると、ここしばらく消費者物価指数が上がったなどと報じている。そして、場合によってはそれに一喜一憂することもある。少し前まではずっとマイナスで、デフレがつづいていると言われつづけ、それはイケナイことなのだとみな思っていた。し…

タッチパネル

タッチパネルが苦手だ。ほかにも回転ドアや、レバーなど苦手なものはいくつもあり、出来ることならそれらを避けて暮らしていきたい。そんなことを考えていた。タッチパネルが苦手になったのは、おそらく東京に出てきてすぐのころ、2000年ごろにJRの駅に…

いつもの店、いつものやつ

いつもの店、いつものやつというのをやってみたい。 「じゃあ、いつもの店で」とか「いつものやつもらおうかな」などと言ってみたい。そう思うようになったのはいつごろだっただろうか。よく行く店がないわけじゃないし、行けばきまって頼むものだって結構あ…

ポール・オースター『リヴァイアサン』のいたずら

少し趣向を変え、今回はぜひ夏休みに手にとってほしい本を紹介したい。ポール・オースターの『リヴァイアサン』である。物語は、語り手である小説家ピーターが、全米中の自由の女神像をつぎつぎと爆破している最中に不注意から爆死してしまった男が実は親友…

シュラスコを食べる時に気をつけること

会社の人たちとシュラスコを食べに表参道へ行った。テーブルに着くと、剣のようなものにロース、ランプなどさまざまな部位の肉を塊のまま突き刺し、火で焼いたものをつぎつぎに店員が持って回ってくる。そして目の前で肉切りナイフで焼き色の付いた表面をす…

プロの殺し屋

ときどき極度の空腹に陥ると、ラーメンもチャーハンも餃子も食べたくなり、手近に見つけたラーメンのチェーン店に入る。用事があって出掛けた帰りで、随分と時間も遅いのに、店内は結構に賑わっている。蒸し暑い日だというのに、全身黒ずくめの男が二人並ん…

思い込み

1ヶ月ほど前に学芸大学駅の近くに引っ越しをした。増えたのは本くらいのものだろうと思っていたのだが、私の予想に反して、荷造りをしてみれば、この大きな本棚も買った、液晶テレビも買ったと思い当たり、改めてものが増えていることを実感させられた。私…

繰り返す虫歯とメロディ

春になると虫歯になる。なにを言うのだと笑われそうだが、実際私の歯が痛みだし、詰め物が取れたりすると、決まって季節は桜の時期なのだ。花粉症でもあるまいし、もちろん春と虫歯の間には直接的な関係はない。おそらく冬場の私の習慣のなにかが悪さをして…

オリジナリティ

家の近くのそれほど人通りのない住宅街を歩いていた時だった。角から現れた中年の女性が駅への道を尋ねてきたのだ。道に迷ってしまったのだろうと考えた私が丁寧に駅への道順を教えたところで相手はこう切り出した。 「川崎から家族で桜を観にきたんだけれど…

論理学の講義における「岡田」について

「岡田が来ると、パーティーがつまらなくなる」 スーツを着た講師は大教室で息を切らしながらプリントを配り終えると、マイクを持ち、すごい音を立てて板書をしながらこう言うのだった。それは学生のころに履修した論理学の講義でのことだ。彼はさらにその左…

カレー屋へ向かう五人の凡夫

私たちは会社帰りに、一駅か二駅離れた駅の近くにあるカレー屋へと向かっていた。先輩によるとこの辺りでは評判のカレー屋らしい。店の前にたどり着くと、さすがは人気のカレー屋で店内は満席、店の外にも客が並んでいた。しばらくすると店内から出てきた若…

誰を感化するかわからない

急に暑くなったけれど、朝はまだ外を歩くのに気持ちがよい。駅から会社への道を朝歩いていると、大きな太鼓の音や、マイクでアナウンスする声が聞こえてきた。ちょうど、会社へ向かう道は小学校の校庭に沿ってつづいており、先月の連休明けから校庭では運動…

唐突に言う

カットサロンで髪を切り終わった時や、シャンプーをしてもらった時などに促されて椅子から立ち上がると、美容師さんが言う。 「おつかれさまでした!」 すると周りで働いている美容師さんたちが一斉にこう言ってくれるのだ。「おつかれさまでした〜!(合唱…

旅行が旅に変わる時

計画を立て、旅行する。そして、旅行に行って帰ってきてみると、これは旅だったなと思う。旅行と旅の違いは、どれくらい予想もしなかった人やものごとに出会えたかという点にあるのではないか。そして、旅行から旅へとどこかで一線を越える瞬間が確かにある…

あえて2回言う

ゴールデンウィーク中に、電車で本を読んでいたら、出張帰りという雰囲気のスーツ姿のおじさんと若い男が乗ってきて隣に座った。しばらくすると、おじさんは携帯電話の画面に息子の写真を表示させて、若い男に見せはじめた。 「これは小さい頃の写真だけどね…

極度の心配性

チャックが生地に絡まった。春先になりなんとなしに羽織ったパーカーだった。チャックを閉める指先に、いつもと違う引っ掛かりを感じた時には既に遅かったのだ。どこにそんな隙間があったのだろうかというチャックの鎖の間に布地が挟まっている。これは大変…

おまかせ亭

渋谷のおまかせ亭というレストランに入った。店名からして、なんとも頼もしい。映画を観た後でとてもお腹が空いていた私はカレーのセットを頼んだ。あっという間にボール皿に入ったサラダが出てきた。サラダだけでもお腹がいっぱいになりそうである。さすが…

視線の送り方

紀伊国屋書店で本を買い、新宿駅への地下道を歩いていた。改札口へと続くゆるやかなカーブを描く階段を上がっていくと前方から 「チラッ、チラチラ」 という女性の声が聞こえてきた。顔を上げると、百貨店の紙袋を提げたご婦人が満面の笑みで、顔を突き出し…

丁寧なバス運転手

雨の日の朝に駅へと向かうバスはかなり混雑している。私自身もそうだが、普段は歩いたり、自転車に乗ったりする人たちがバスに乗るからだし、道も渋滞しがちだからだ。最近はバス停に「あと3分で到着します」などといった案内が出るようになっている。とて…

意味もなく花笠をかぶる

いつになく長く感じられた冬も終わり、今年は一気に暖かくなった。春、桜の季節の到来である。桜や気持ちがいい風に誘われてか、冬の間はどこかに身を潜めていた可笑しな人たちも町へと出てくるものだ。 つい先週、外は汗ばむほどの陽気で、私は薄手のパーカ…

カレー屋の小芝居

休日の午後、吉祥寺のある店でカレーを食べていた時のことだ。その店のカレーは黒々としたルーの上に、刻んだパクチーが載せてあり、味にちょっとしたアクセントを与えていた。うまいなあ、どうやってこんなにうまいカレーを作るんだろうなあと感心しながら…

本質的には同じものだからこそ

端から見れば同じものにしか見えないものだが、当の本人は自分にしか見分けの付かない微妙な違いを愛でていることがある。例えば、プロ野球の試合を見ていると 「昨日も同じのをやってたよ」 と家族が言う。野球に興味のない人からすれば、同じ試合にしか見…

恐ろしい地下鉄

去年の夏のことだが、はじめてイタリアに旅行に出かけた。最初にローマに滞在し、その後鉄道でフィレンツェ、さらにピサへと足を伸ばした。ピサでは現地に住む友人が案内してくれたお陰でのんびりと風景や料理を愉しむことが出来たのだが、最初に入ったロー…

年を取ることの謎

紅白歌合戦で石川さゆりが出てきて、「津軽海峡冬景色」を唄いはじめると、なぜか横で父も熱唱し始めた。すぐにやめるかと思ったら一向にやめる気配がない。やめてよと言ってもやめない。母は母で、前にも聞いたような話をくり返したりする。二人ともほんと…