可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

何に並んではるんですか?

羽田空港の搭乗ゲートの前にいた。混雑していた。搭乗時刻が近づくと、人がズラーっと並びはじめた。しかし、目で列を前方へと辿ると、そこにゲートはなく、かわりにスーツをビシッと着た背の高い男性が立っていたのだった。

空港のスタッフには見えない。繁忙期のため本社からサポートに来た助っ人だろうか。助っ人の男性は乗客からファイルのようなものを受け取ると、なにかペンでささっとそこに書き加えて、返して行く。文字通り列に並んだ乗客は捌かれていく。ツアー客だろうか、それとも修学旅行だろう。チケットの確認をしているのか、あるいは何かのチェックポイントだろうか。仮にそうだとして、ペンでささっと書いているものが何なのか私にはわからない。今さらチケットを確認してどうしようというのだ。

しばらく列に並んだ人たちを観察していると「あったわよー」と走って戻って来た人がいた。手にしていたのは色紙のようだった。

そこで初めて私は気付いた。そうか、これは有名人なんだ。有名人にサインをねだっているファン。しかし、そうとわかっても、今度はその有名人が誰なのか私にはわからない。ガタイのいい体にスーツ、サングラス。EXILEだろうか。あるいは、三代目なんとかか。妹分的なEgirlsというグループも最近はいるらしい。

並んだ乗客を見ていくと、若い人の中に、ずいぶんと年配のおじさんがいる。いやむしろジャンパーを着たおじさんがかなりの割合を占めていることに気づくのだ。したがって、私はこう結論付ける。これはEXILEじゃない。

これはあれだ、野球選手だ。そこまではよかったのだが、普段野球を見ない私には野球選手の誰なのかがわからない。周りを見渡すと、たしかに同じようにスーツにサングラスという格好の背の高い男性が他にも何人もいる。おそらく、彼も野球選手だし、隣の彼もそうなのだろう。

一体誰なのか、どうしても知りたくなり、色紙を抱えて列に並ぶジャンバー姿のおじさんに私は声をかけたのだった。

「これは一体誰に並んでるんですか?」

きっとこのご機嫌なおじさんが問いを解決してくれるに違いない。そんな安心感のあるおじさんを選んだはずだった。ああ、あの人ですか。なるほどね。ところが、そんな妄想していた私に、おじさんは滑舌悪く、

「あながみさん」

と言ったのだ。あながみさん? やはりわからない。私が聴き返すと、おじさんは、メンドくさそうに、

「あながみ、さー、んー」

と「さ」と「ん」の部分だけを強調するので、やはりわからないのである。私にわかるのは「さん」を強調しなくてはならないほど、このおじさんは熱心なファンなのだということだ。わからないものの、ああそうですか、ありがとうございました、と伝えてベンチに戻る。「巨人、あながみ」と検索しても何も出てこない。ひょっとしてサッカー選手なのだろうか。

聞き取れず諦めていると、隣のベンチにベイスターズのジャンバーを着込んだおじいさんとおばあさんが目に入った。ああ、ベイスターズの選手なんだ。私は今度は「ベイスターズ あながみ」と検索したのだった。そうか、今日からキャンプなんだ。

 

* タイトルを「羽田空港のゲート前で」から変更しました。(2017/02/10)