可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

タクシーのサービス

地元の駅から乗るタクシーは、お世辞にも柄がいいとは言えない。ところが、ある夜出張の帰りに乗ったインド系の運転手はとても丁寧だった。それに車も新しい。こちらでは車体がボコボコで、シートベルトは壊れており、土砂降りになれば雨漏りのするような車が平均的だ。これは期待が持てる。そう考えていると、ハンドルを握る手を離した運転手が、ダッシュボードの上におかれていた芳香剤を手にとったのである。とっさに彼が何をしようとしているのかわからなかった。彼はその手にした芳香剤を、なぜかカーラジオの下にあいたエアコンの送風口にかざし始めたのである。送風口の前でゆらゆらと芳香剤をゆすっているとラウンドアバウトに近づいた。彼は慌ててそれをダッシュボードに置いて、ギアーを切り替える。するとまた彼は芳香剤を手に取り、送風口の前でゆらゆらとゆすりはじめるのだ。交差点や信号が多いので、じきにまた芳香剤をハンドルやギアーに持ちかえなければならなかった。

何をしているのかわからなかった私だが、タクシーの中を次第に強い香りが充満しはじめてようやく理解することになった。彼はサービスしているのだ。しかし、彼がなぜにそれほど芳香剤の香りを充満させたかったのかについては、私には未だにわからないのである。

随分と長い間、可笑しなことの見つけ方を書けずにいた。それはおそらくこちらで暮らしはじめて、見るものすべてが新鮮であり、またその中で生活していくのに必死だったためである。可笑しなことを見つけていく道は険しい。ではいったいマレーシアで私は何を書けばよいのか。真っ先に考えたのは、マレーシアはこんな国だとか、マレーシアの人々の気質はこうだというような分析したり、断定したりするのはよそうということだった。今のところ、私はまったくそういうことに興味がないのだ。むしろ、分析され、断定される前の投げ出された可笑しさについて綴っていきたい。その末にどこに辿りつくのか私にはわからない。ただ、確かに可笑しなことはこの土地にも存在するのだ。その可笑しさにおつきあいいただければ幸いである。