可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

秋のポルターガイスト

 20年近く前の秋の夜、私はアルバイト帰りで浜松町駅のホームに立っていた。その日は休日で、夜遅くのホームで電車を待つ人はほとんどいなかった。びゅーっと風が吹くとかなり寒い。私は早く電車が来ないだろうかと思っていたのだった。程なくして電車到着の自動アナウンスが流れた。それにつづけて駅員のアナウンスが入った。
「えー、次の山手線外回り、品川・渋谷方面ご利用のお客様、3両目を避けてご利用ください」
 咄嗟に3両目だけが極度に混雑しているのだろうかと思った。しかし、そんなことがいったいどうして起こるだろうか。一カ所が込んでいるのなら、別な車両に移るのはずである。あるいは、貸し切り電車か?とも私は考えたが、それならばもっと車両の端に設定しそうなものである。私はよくわからなかった。
 ホームへと電車が入ってくると、車両の中からホームに、ひゅー!、ひゅーっ!という口笛なのか、叫び声なのかわからない音が折り重なるように鳴り響いた。3両目の電灯は真っ暗に消えていた。私は思った。
ポルターガイストだ!」
 3両目が近づいてくると、真っ暗だった車両の中から悲鳴が鳴り響き、電灯はチカチカと点いたり、消えたりをくり返していた。
「やはり、ポルターガイストだ」
私はそう確信を深めた。しかし、もちろんそんなはずはなかった。電車が停車すると、車両の中から、鳴りものを抱えたり、変装した外国人が一斉にホームに溢れ出てきた。ホーム上は一瞬にして昼間のように人でいっぱいになり、彼らは鳴りものでどんちゃん騒ぎを繰り広げた。
 しばらくして、発車のメロディーが鳴り終わると、騒いでいた人たちはきゃーきゃー声を上げながら急いでドアに駆け込み、前の人間の背中を押して、ぎゅーぎゅーの電車の中に収まっていった。これが各駅でつづいた。
 あれはなんだったんだろうと思いつつも、途中の駅で降りた私は、翌日の新聞でトレインジャックした人たちが逮捕されたと知った。それは今思えば、ハロウィーンの夜だったのだ。