可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

タッチパネル

 タッチパネルが苦手だ。ほかにも回転ドアや、レバーなど苦手なものはいくつもあり、出来ることならそれらを避けて暮らしていきたい。そんなことを考えていた。タッチパネルが苦手になったのは、おそらく東京に出てきてすぐのころ、2000年ごろにJRの駅に導入されたタッチパネル式の券売機によるものだろう。画面に表示された金額のアイコンを押すのだがなかなか反応しないのである。それでいてなぜか少しズレた位置にそっと触れると反応する。そして反応するや否や、まるで私を警戒するように、コインの投入口がカチャンと音をたてて強く閉ざされるのだ。

 あれ以来、タッチパネルは苦手だ。iphoneにしたって、なにかと打ち間違いをしてしまうし、macbookのタッチパッドも複数の指を使った操作など、不器用な私にはとてもじゃないけれど完遂することはできない。会社の複合機のタッチパネルの操作も、ゆるやかな反応のために、連打すると遅れてつぎつぎと間違った操作が受け付けられてしまう。そして、ここへきて不意にタッチパネルと抜き差しならぬ状況に追い込まれてしまうのが、コンビニのレジだ。
「今夜はビールでも飲もうかな」
と気楽にカゴにビールとつまみを放り込み、そしてレジにたどり着いてはっと気づくのだ。
「年齢確認のボタンをタッチしてください」
私はしまった、こんなところにタッチパネルがあったとはと焦りだす。音声と同時に、画面には「年齢確認:20歳以上ですか? はい」のボタンが現れる。そして、店員は私にタッチパネルをタッチするように言うのだ。私はほとんど促されるままに「はい」のボタンを押す。
 私は思った。どうして「はい」しかないのだろうかと。「はい」だけなら、べつに押さなくてもいいのではないか。当然のことながら、「はい」があれば、「いいえ」もあるべきだろうし、場合によっては「わからない」があってもいいのではないだろうか。たとえば、よっぱらって酩酊していたとする。自動音声が「年齢確認ボタンをタッチしてください」と言うのだが、
「えぇ? なんだって?」
と酔っぱらいは繰り返す。自分が20歳なのかどうなのか、そもそもなにを訊かれているのかわからないというような状況もあるだろう。もちろん、そのように泥酔した客には酒を売らない方がいいという意見もありそうだが、この年齢確認とは、酒を飲むべきかを判断しているわけではない。
 もし飲むべきかの判断を下しているのならば、たとえば、
「健康診断の結果はよかった?」「はい、いいえ、どちらともいえない」
といったやり取りをすべきだろう。
 そんなことを考えながら、私はすこしずつコンビニのタッチパネルに慣れていったのだ。慣れてしまえば、動揺するほどのことでもない。私は店員がバーコードを読みはじめたときから、すでにタッチパネルの方をじっと見てタッチの用意をしている。ところが、画面にはなにも出てこないのだ。店員もなにも言わないのだ。しばらくすると合計金額を言い、そして袋詰めをはじめた。
 じっとタッチパネルを見ていた私は尋ねた。
「あの、年齢確認は?」私はカゴに入れたビールの缶を指差した。
 するとその店員さんは
「あっ、銀河高原ビールはいいんです〜」と言うのだった。
 意味がわからなかった。もしその場に「わからない」というボタンが表示されていたら、すかさずそのボタンを押しただろう。