可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

カレー屋へ向かう五人の凡夫

 私たちは会社帰りに、一駅か二駅離れた駅の近くにあるカレー屋へと向かっていた。先輩によるとこの辺りでは評判のカレー屋らしい。店の前にたどり着くと、さすがは人気のカレー屋で店内は満席、店の外にも客が並んでいた。しばらくすると店内から出てきた若い店員の男性が順番に客に尋ねていく。

「お客様、何名様ですか?」
 先輩は念のため、ふっと後ろを振り向き人数を数え、
「あっ、5人です」と答えた。
 すると店員さんは、
「5名ですね」と繰り返し、ひと呼吸おくと
「5名以上のお客様はお断りしております。申し訳ありません」と言った。

  予想もしない出来事に一瞬先輩の顔が曇った。私たちも寝耳に水だった。しかし、私たちは事態がそれほど深刻であるとは考えていなかった。先輩が言った。

「あぁ、3人と2人で別々に分かれても大丈夫ですよ」と先輩が言うと、
「いえ、そういう問題ではありません。お断りしてます」と言う。
 ようやくことの深刻さに気付いた先輩が
「あぁ、じゃあ、僕だけ適当にぶらぶらして1時間後くらいに来るとかならいいですか?」
と訊くと、
「時間をずらされても駄目です。今日はもうみなさまはご入店いただけませんので、お帰りください」と言った。
 私たちはもはやどうしようもないのだということにようやく気付いた。しかし、これほど頑に拒むようになるに至った経緯はどのようなものだったのだろうか。例えば、店の将来を占い師に見てもらったら、
「5人組には注意をしなさい」
と言われたとかだろうか。気にしないようにしていても、やはり占い師からそんなことを言われたら、神経質にならざるを得ないだろう。あるいは、かつて5人組の何かがこの店で暴れたのだろうか。しかし、あくまでこれは想像の域を出ない。どうして駄目なのかは実際には教えてもらえないのだ。腹を割って話してもらえれば、これほどのショックを受けることなく帰ることが出来たのではないか。今思い出してみても、気になるのは店員が初めから不機嫌そうだったことだ。
 私はそれまで入店拒否というものを受けたことがなかった。もちろん、満席だったり、予約でいっぱいだったり、材料が足りないと言ったことで断られたことはある。しかし、人数で断られたことというのは過去に経験がなかった。今となっては笑い話だが、その時はかなりのショックだった。空腹だったことも影響していたかもしれないが、職場の仲間で早上がりの日に食事をしに行くこと自体が否定されたような気がしたものだった。
 私たちは仕方なくあきらめ、落胆し、そして近くに見つけた別のカレー屋に入ったのだった。扉を開けると、店員さんがそっけなく
「何名様?」と訊いた。先輩が
「ご、ご、5人なんですけど大丈夫ですか?」と恐る恐る尋ねたとき、私を含めその場にいた人間はここでもひょっとして入店を拒まれるのではないかと固唾を飲んだ。
 しかし、それも杞憂に終わった。うまいカレーにありつけたのだ。私たちはこの苦難を共に語らい、先輩を労いながら、カレーを食べることになったのだった。

 

【お知らせ】

 今回から更新日時を木曜20時に変更させていただきます。

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