可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

唐突に言う

 カットサロンで髪を切り終わった時や、シャンプーをしてもらった時などに促されて椅子から立ち上がると、美容師さんが言う。

「おつかれさまでした!」

すると周りで働いている美容師さんたちが一斉にこう言ってくれるのだ。
「おつかれさまでした〜!(合唱)」
 髪を切ることの爽快感もあるが、ああやって元気のいい声を繰り返し聞くことが、いくらかは髪を切った後の清々しい気持ちにつながっているような気がするのだ。
 お店で買い物をする。応対してくれた店員さんが、
「ありがとうございました!」
と言って頭を下げると、他の店員さんもそれを追いかけるようにして、
「ありがとうございました〜!(合唱)」
と言ってくれる。あれもとても元気になる気がするのだ。
 そして、今ここで考えたいのはドトールコーヒーの場合だ。レジを担当する店員さんの奥に客席の方に向かって黙々とサンドイッチを作っている店員さんがいる。私がレジに並んでいると、奥の方で店員さんが、てきぱきとバターを塗ったり、サンドイッチの具材をバゲットの上に載せたりしている。その彼が突然顔を上げこう言うのだ。

「ご一緒に、ミラノサンドはいかがでしょうか〜!」

 宙に向かって言い放った男の声がフロア全体に響き渡るのだ。まるで
「しまった! クリーニング屋でコートを受け取るの忘れてた!」
というような感じで。すると、レジの店員さん、コーヒーマシン担当の店員さん、食器を洗っていた店員さん、テーブルを拭いていた店員さんが、同時にはっと顔を上げ、そして言うのである。
「いかがでしょうか〜!(合唱)」
まるで、これも、
「そうだった! わたしも一昨年から預けっぱなしだった!」
という感じなのだ。まるでミュージカルのようだ。私もこれを聞くと、はっと顔を上げてしまう。これを聞くのが好きだ。そして好きだから、ますます気になっていくのだ。
 おつかれさまでしたも、ありがとうございましたも、端から見たら唐突のように見えるけれど、言われている方にはきっかけや兆しがある。自分が席を立ち上がったり、品物を受け取って店を出ようとしたりしているからだ。しかし、このドトールの「いかがでしょうか〜」は、ほんとうに唐突なのだ。これは事件だ。どういうタイミングでサンドイッチを作る店員さんが言い出すものなのか、最近私は気にしているのである。