可笑しなことの見つけ方

日常で見つけた可笑しなことを書いていきます。毎週木曜日20時ごろ更新予定です。

おまかせ亭

 渋谷のおまかせ亭というレストランに入った。店名からして、なんとも頼もしい。映画を観た後でとてもお腹が空いていた私はカレーのセットを頼んだ。あっという間にボール皿に入ったサラダが出てきた。サラダだけでもお腹がいっぱいになりそうである。さすがはおまかせだ。

 サラダはレタスやトマト、ルッコラなどの生野菜だけではなく、ブロッコリや菜の花などの温野菜が上に載せられており、ボリュームがかなりあった。そして、上品な酸味のフレンチドレッシングがちょうどいい塩梅に掛けられているのである。

 私は夢中になってそれを食べた。そして、温野菜の中に、何やら見かけない食材を見つけたのだった。薄く輪切りにされたそれの皮の部分はごぼうのような焦げ茶色をしている。そして中は寒天のように薄く透き通っているのである。

 カットして口に含むと、シャリシャリとした食感と、ほんのり甘く、かすかにごぼうのような土のものの風味が残る。これはいったい何なのだろうか。

 店員のおじさんに聞いてみようと思うのだが、忙しそうに料理を他のテーブルに運んだり、会計をしたりしており、なかなか声を掛けるタイミングを見出すことが出来ない。

「これはなんですか?」

と聞くために、その薄く輪切りにされたごぼうのようにも見えるものをボウルの野菜の上に残しながら、他の野菜を食べていくのだ。

 一度、店員のおじさんは私の水を注ぎに来てくれたのだが、その時には

「今日はお仕事?」

と向こうが質問をし、私が

「いえ、今日は休みなんです」

と答えると、レジの前に立った客に気付いて、

「ごゆっくり」

と去って行き、私は「この野菜は何ですか?」と聞くことが出来なかったのだった。

 しまったと思った。サラダを食べきるまで、もうあの店員さんは来ないのではないか。もはやこの食材の名前を聞く機会を失ってしまったのではないか。そんな考えがよぎったのだ。

 私は、次に聞くチャンスがやってきたときのために、なんと聞けばいいのか考えを練った。

「あの〜、サラダの上に乗っている野菜で」

 いや、これでは駄目だ。何しろ、サラダの上にはこの不思議な見かけない食材だけではない。安易に聞けば、

「あっ、それはねサツマイモですよ」と言われてしまうかもしれない。そうだ、菜の花やブロッコリ以外に、スライスしたサツマイモまで載っているのだ。私とてサツマイモがわからないわけではない。そんなことになったら一大事である。そこで、私はこう言うことにしたのだった。

「サラダの上に乗っている、中味が透き通っていて、淵が焦げ茶色の、ほんのり甘い野菜は何ですか?」

 失敗は許されない。これを一度に詰まらずに言わねばならない。頭の中でこの文言を私は反芻した。そして、その時に備え、コップに入った水で口を少し湿らせた。するとちょうどその時、店員さんが私の方にやってきたのである。今しかない。私は間髪を入れずにサラダの中を指差して反芻したセリフを口にした。

「あの〜、このサラダの」と言いはじめるや否や、すかさず

「ヤーコン」と店員のおじさんは何でもないことのように、コップに水を注ぎながら言った。

 店員さんにはお見通しだったのだ。私がまだ肝心なことを言う前に、私の質問を理解してしまったのである。おまかせ亭はほんとうにおまかせで望むべき店だと悟ったのだった。オニオンカレーも、一口サイズのデザートもコーヒーも、美味しかったことは言うまでもない。